海洋・海上用途におけるGNSSの活用
地球の表面の70%以上は海や水路で占められており、海洋および海上用途に特化したGNSS（全球測位衛星システム）アプリケーションの需要は非常に高まっています。具体的なユースケースには以下が含まれます：
- 船舶ナビゲーションおよび外洋ルーティング
- AIS（自動識別システム）と衝突回避
- 沿岸監視用のVTS（船舶交通サービス）
- 海上・石油プラットフォームにおける動的ポジショニング
- 港湾業務、接岸、荷役
- 捜索・救助（SAR）ミッションにおけるGNSS
- 漁業、海洋学、海洋研究での活用
これらすべてに共通しているのは、高精度かつ高可用性のアンテナが不可欠であるという点です。以下に、アンテナ選定時の重要なポイントを紹介します。
GNSSコンステレーションの選定
アンテナを選ぶ際、最初に検討すべきなのは対応するGNSSシステムです。使用地域によって最適な選択が異なります。
以下の4つはグローバルカバレッジを提供する主要なGNSSです：
- GPS（アメリカ）：31基以上の衛星で地球全体をカバー
- BeiDou（中国）：当初は地域限定でしたが、現在は35基の衛星で全世界をカバー
- Galileo（欧州）：2018年に24基＋予備6基の衛星によりグローバル展開完了
- GLONASS（ロシア）：高緯度地域での精度に優れたグローバルカバレッジ
また、以下の2つは地域カバレッジに特化しています：
- QZSS（日本）：アジア・オセアニア地域に向けて展開。2018年に完全運用
- IRNSS/NavIC（インド）：インド周辺地域に対応。2018年に完全運用
用途によっては、複数バンド・複数コンステレーション対応のモジュールとアンテナを選ぶことで、位置情報や時刻の信頼性を高めることができます（詳細は「L1・L2・L5バンドの違いと選び方」をご覧ください）。
高緯度での精度確保
デバイスの設置位置が緯度55度以上の場合、GPS衛星の地平線からの高度が最大で45度程度に制限されるため、衛星の可視性が低下し精度が下がる可能性があります。
そのため、GLONASSやGalileoにも対応したアンテナを選定することで、高緯度地域でも精度を維持できます（詳細は「高緯度環境におけるGNSS/INSシミュレーション」参照）。
精度・耐妨害性・将来性を高める方法
マルチバンドアンテナを選ぶことで、以下のような利点があります：
- 将来展開に備えた柔軟性：
たとえば、大西洋向けに設計されたアプリケーションをアジア太平洋地域に拡張する場合でも、QZSSやIRNSSに対応していれば、再設計不要で市場拡張が可能です。 - 妨害・なりすまし（ジャミング・スプーフィング）対策：
現在、民間・政府問わずGNSSシステムは攻撃対象になっています。マルチコンステレーション対応であれば、異なる周波数の信号に切り替えることで耐性を確保できます（詳細は「GNSSアンテナによるジャミング攻撃対策」参照）。 - Lバンドによる補正精度向上：
Lバンドはセンチメートル精度の補正サービス（PPP）に使用されており、RTKよりも安価に高精度測位を実現できます。港湾における自動運搬車両など、コストと精度を両立したい用途に最適です（詳細は「LバンドによるGNSS精度とコストのバランス最適化」参照）。
「マリン対応」アンテナの条件とは？
海や湖といった水環境は、精密電子機器にとって非常に過酷です。塩害、湿気、鳥害などに耐える堅牢な設計が求められます。
たとえば、Taoglas Neptune XAHP.30は、マルチバンド・マルチコンステレーション対応の海洋用アンテナで、以下の特徴があります：
- IP67準拠：30分間1メートルの水中でも耐浸水性を維持
- ドーム型筐体：鳥が止まりにくく、物理的損傷を防止
- -40℃～+85℃の広温度範囲対応：極地から熱帯まで使用可能
これらの特性により、グローバルSKU（単一型番で世界展開可能）GNSS製品に最適です。
GNSSは、かつての六分儀のように現代の航海士にとって不可欠なツールです。Taoglasは、マウント、ケーブル、アンテナ製品群、エンジニアリング支援を通じて、海洋・海上用途のあらゆるニーズに対応します。