スマートウォッチはウェアラブルデバイスとして最もよく知られていますが、市場はそれだけにとどまらず、以下のように広範かつ多様です:
- ペットの首輪型トラッカー:迷子になった猫や犬の位置を素早く特定
- 家畜用の首輪・耳タグ:位置情報に加え、心拍数や体温なども取得
- 電気技師向けのリスト型センサー:高電圧の接近を警告し、転倒時に雇用主へアラート
- 訪問介護スタッフやホテルの清掃員など単独作業者向けのウェアラブル緊急ボタン
人間でも動物でも、ウェアラブルが共通して持つ要件はただ一つ:ワイヤレス性能が極めて重要であること。たとえばGNSSを利用するウェアラブルでは、負傷した単独作業者や危機的状況にある家畜の位置を即座に特定できなければなりません。以下に、GNSSの精度と可用性を最大化するための方法をご紹介します。
GNSSコンステレーションの選択肢
GNSSモジュールとアンテナシステムは、単一バンドおよび単一コンステレーションをサポートするものから、複数バンド・複数コンステレーション対応のものまでさまざまです。デバイスOEMやシステムインテグレーターにとっては、コストや用途要件に応じて最適な構成を選ぶ必要があります。
多くのウェアラブル、特に北米市場向けの製品では、1575.74 MHzで動作するGPSのL1信号をサポートするGNSSモジュールとアンテナが搭載されています。もし用途が生死に関わるものでなく、価格に敏感なユーザーをターゲットとしている場合は、L1のみでも十分な場合があります。
一方で、用途がミッションクリティカルであったり、ユーザーが高精度・高可用性のためにプレミアム価格を支払う意思がある場合は、L1に加えてGPSのL5信号を追加することが大きなビジネス上のメリットとなります。L5は元々航空機の安全向けに開発されたもので、GPSが提供する民生向け信号の中では最も先進的です。より高い送信出力と1176.45 MHzという低い周波数帯の組み合わせにより、L1信号が弱くなる森林地帯や高層ビル密集地などの環境下でも、GNSS性能を大幅に向上させることができます。(詳細は「GNSSにおけるL1、L2、L5バンドの選び方」もご覧ください。)
また、北米に限定されないグローバル市場をターゲットとする場合は、BeiDou、Galileo、GLONASSといった他のグローバルコンステレーション、あるいはQZSS(東アジア・オセアニア)、NavIC(インド周辺)といった地域コンステレーションへの対応も検討する価値があります。GPSはグローバルカバレッジを提供しますが、他のコンステレーションを追加することで、衛星数や周波数の多様性が確保され、精度・信頼性・可用性が向上します。
特に北緯55度以北の地域ではGPSの精度が低下する傾向があります。これは、GPS衛星が地平線から45度の角度までしか上昇しないため、見える衛星数が制限されるからです。このような地域では、GLONASSやGalileoに対応することで、より高緯度でのカバレッジが改善されます。(カバレッジと能力に関する詳細は「GNSS vs GPS:その違いとは?」および「GNSS信号のL1、L2、L5、E5a、E5b、G2とは?」をご覧ください。)
フォームファクタと機能性のバランス
ウェアラブル端末に共通して求められるもう一つの要件は、小型かつ軽量であることです。大きくてかさばるデバイスは、人も動物も装着を嫌がる傾向があります。
このようなスリムなフォームファクタは設計上の課題を生みます。たとえば、板金型や粘着シート型の既製品GNSSアンテナは、腕時計のような形状のウェアラブルには適さない場合があります。
この問題を解決するのが**LDS(Laser Direct Structuring)**という技術です。これは、ポリマー樹脂を用いて、3D形状のプラスチックキャリアにGNSSアンテナを直接形成するプロセスです。レーザーにより、金属トレースがポリマーに接着され、デバイスの筐体の一部または別パーツとして一体化されます。
LDSによって、アンテナをフォームファクタに合わせることが可能になり、ウェアラブルの形状をアンテナに合わせて再設計する必要がなくなります。これにより、製品のサイズ、重量、美観、価格といった市場の期待に応えながら、OEMの利益率も確保できます。再設計の回避は市場投入までの期間短縮にもつながり、収益化も早まります。(詳細は「複雑なフォームファクタでも高性能を確保するGNSSアンテナ製造技術」をご覧ください。)
試験によって性能要件の達成を保証
GNSSの信頼性と性能は、ウェアラブル製品の競争力、収益性、ブランド価値を左右します。そのため、GNSSアンテナの選定は設計初期段階で行うことが重要です。
とはいえ、数あるGNSS信号、コンステレーション、アンテナ材料の中から最適な組み合わせを見つけるのは、経験豊富な設計者にとっても容易ではありません。さらに、実際に設計されたウェアラブルが性能要件を満たしているかどうかを検証する試験も必要です。
Taoglasでは、こうした課題に対応するために、各種エンジニアリングサービスを提供しています。代表的な2つの例を紹介します:
- GSA.30 GPS感度テストサービス:GPSコンステレーションシミュレータと電波暗室を用いて、トラッキング感度を測定。アンテナが正しく統合されているかどうかも確認。
- CSA.50 カスタムGNSS試験サービス:既製品では要件を満たせない場合に最適。設計シミュレーションからプロトタイプの構築、電波暗室・システムレベルでの性能検証までを実施。