GNSS(全球測位衛星システム)アンテナは、大きく分けて「指向性」と「無指向性」の2種類に分類できます。
この違いは、測位精度・タイミング精度・信頼性に大きな影響を及ぼします。
アンテナの選択を理解するための一つの鍵は、**「ゲイン(Gain)」**です。ゲインとは、受信する信号の強度に関連する指向性の指標であり、アンテナがどれだけ効率よく衛星信号を拾えるかを示します。
- 高ゲインアンテナ ⇒ 信号対雑音比(SNR)を向上
- TTFF(初期測位時間)を短縮でき、測位精度が向上します
また、GNSS衛星は右旋円偏波(RHCP)で信号を送信しています。デバイス側のアンテナも同じ偏波特性を持っていないと、受信信号の半分以上が損失する可能性があります。
**アンテナの軸比(Axial Ratio)**は、逆旋(LHCP)信号の除去性能を示す重要な指標です。
設置場所がアンテナ選びの重要なカギ
指向性アンテナの代表例には以下があります:
- パッチアンテナ
- クアッドヘリカルアンテナ(Quad Helix)
- クロスドダイポールアンテナ(Crossed Dipole)
これらは厳密には「半指向性」であり、狭い方向だけでなく、広い範囲にわたる角度から信号を受信します。
指向性アンテナが適しているケース
- 設置向きが事前に明確に決まっている場合
例:EV充電器に搭載するGNSSアンテナ(位置特定と取引タイムスタンプのため)
設置方向が確定している場合、設計に応じたパッチ型やクロスドダイポール型が最適となります。
一方、
無指向性アンテナ(オムニディレクショナルアンテナ)が適しているケース
- 設置方向が不定・変化する場合
例:スマートフォン、タブレット、携帯型デバイスなど
Taoglasでは、無指向性タイプとして次のような製品を展開しています:
アンテナ選定で考慮すべき設置環境
理想的な設置環境は、アンテナが上向きであり、空ができるだけ広く見える場所に設置することです。
- 車載用途では、車両のルーフ上が推奨されます。(金属ルーフがグラウンドプレーンとなるため)
グラウンドプレーンありの場合 ➔ パッチアンテナ、クロスドダイポールアンテナが最適
グラウンドプレーンなしの場合 ➔ クアッドヘリカルアンテナ(例:Colosseum QHA.50.A.301111)が適しています
Colosseumは、均一なゲインと優れた軸比により、多重経路干渉にも強い性能を発揮します。
特殊な設置例と推奨アンテナ
- 車両内部に隠したい場合
フロントガラス上部に貼り付ける方式が効果的です。
例:TFX125.AマルチバンドGNSSポリマーアンテナ(粘着式) - ドローン/UAVのように常に真上を向けるのが難しい場合
クアッドヘリカルアンテナが推奨されます(広範囲から安定受信) - スマートフォンのような持ち運び型デバイス
無指向性アンテナが必須(デバイスの持ち方で向きが変わるため)
無指向性アンテナを選ぶべきシナリオ
- アンテナが常に上向きに保てない場合
- 移動中に端末の向きが頻繁に変わる場合
- 信号源があらゆる方向にある環境下
無指向性アンテナは全方向からの信号を拾えるため、より安定した受信が可能になります。
例外:多重経路(マルチパス)環境下では要注意
都市中心部のように高層ビルから反射した信号が遅延して届く環境では、誤差が生じやすくなります。
このような場合は、指向性の強いアンテナまたはマルチパス対策が施されたアンテナを選定することが推奨されます。
(詳細は「Multipath Analysis Using Code-Minus-Carrier Technique in GNSS Antennas」をご参照ください)
まとめ:最適なGNSSアンテナ選定は設計初期段階で行うべき
- 設置場所、環境、デバイスの使い方に応じて指向性・無指向性を選択
- グラウンドプレーン有無、信号強度、設置制約も考慮
- 設計段階からアンテナを検討することで、後戻りコストや開発遅延を回避可能
Taoglasでは、製品設計初期段階からお客様をサポートし、最適なアンテナ統合と迅速な市場投入を実現しています。